当家の歴代の行者は、出羽三山の湯殿山に入り修行を積んで参りました。湯殿山には、即身仏を祀る寺院があります。しかし、明治期の廃仏毀釈の法難や度重なる火災のため、古文書類はほとんど残されておりません。
御幣について、当寺に残されている他は、湯殿山では消滅してしまいました。これらの御幣は、型紙とともに「御幣~祈と祓のすがた」(青山社刊)に30体余りを紹介しています。作り方の詳細は型紙と共に、そちらに譲る事にして、個性豊かな御姿を何点か、ご覧頂きたいと存じます。
その一回目として、湯殿派修験道にとって大切な三宝荒神をご紹介します。
三宝荒神は「土」を盛り、「火」をお越し、「水」を用いる竈の神とされています。生活に欠かせない「土」、「火」、「水」の三つは、我々にとっては宝物、すなわち宝物なのです。
修験道においても、三宝荒神は重要な存在です。と申しますのは、人間の諸悪の根源とされる三毒、すなわち貪(むさぼり)、瞋(いかり)、痴(おろかさ)をコントロールする存在とされるからです。三毒が神格化された存在が三宝荒神です。人間に災いをもたらす怨霊を鎮めるために祀った御霊神に通じるものがあります。
役行者が三宝荒神を感得した際に「我は是れ三宝荒神の神にして常に浄信修善の者を扶(たす)け不信放逸の者を罰す」と告げたとも言われています。この三毒を克服する事が出来れば、修行もうまく行くという事です。
湯殿派修験道が湯殿山へのお参りの際にお勤めする湯殿山法楽には、護法童子の八大金剛童子に次いで、「御裏(おうら)に三宝荒神」と独特の節回しでお唱えします。この御裏とは、後ろという事で、本尊の裏に守り神として三宝荒神を祀ります。行者は祈る度に本尊だけではなく三宝荒神も拝する事になります。
本宗には三色の紙を使ったエネルギーがほとばしるように力強いお姿をした三宝荒神幣と白または赤い紙を使った三宝荒神壱本幣と呼ばれる二つの御幣が伝わっています。いずれも開眼した後には、本尊の後ろに鎮座させて自坊守護として祀ります。