令和元年甑嶽峰中修行3(5月24日③)

令和元年甑嶽峰中修行3(5月24日③)

甑岳は村山市や東根市の中心部からわずか数キロメートルしか離れていません。奥羽山脈西端にそびえ、古来より人々が水分のお山として崇め、踏み入って来た山です。現在の登山道は縄文時代から蝦夷の民が踏み固めてきた歴史を刻んでいます。古からの時代を経て、様々な民がこの道を経て頂に立ってきたのです。今は幼稚園児からお年よりまで笑顔で登山を楽しんでいます。

しかし、行者として装束に身を包み、儀礼を行ないながら入山すると、山の様相は一変します。懈怠の行者は、この峰行自体に参加できません。このお山は人を見ます。一年目は来れても、興味半分の物見遊山の輩は二度と受け容れる亊はありません。足が達者だという者でもヘタります。しかし、ひとたび受け入れられば、高齢でも、持病がある者でも、お山は手を差し伸べてくれます。

甑岳は不思議な山です。秘していた亊ですが以前、私は甑岳山中で天狗に出会った亊があります。その天狗はバリトンのよく通る声で、見事に法螺の音を真似るように歌いました。今回、この天狗を見たという者がいました。獣の臭いがしたそうです。私は「この山はそんな山だから」と訳の分からない説明をしました。この山の奥深さに畏怖します。

そんなお山に立ち入る事を許して頂く為に、山ノ神神社で入山作法をします。「娑婆に未練のある者は、立ち去れ」と申渡されます。これから分け入る先は、道が未知となり天狗にも出会う領域なのです。勿論、誰も立ち去る者などいません。魔界と化したお山に嬉々とする確信犯たちの登拝が始まります。