『不動壱本幣』
前回はお不動さまと五大明王を一本の幣に現す「不動一本五大尊」幣を紹介しました。
今回まず紹介するのが、お不動さまを単独で表すこの「不動壱本幣」です。
修法の都合上、強くお不動さまと結縁したいと考える行者にはこちらの御幣がよいと存じます。
知々理は中心となる側から、2、9、5、3、5、7、8と決められております。
写真は四つ折りにした一枚の奉書紙で作りましたが、口伝ではこの幣に使用する紙は12枚または24枚とされています。
知々理が一枚一枚に入る事になりますので、12枚または24枚という枚数になりますと、大変なボリュームとなります。
まさに不動が火炎の中に住する如くの姿を呈する観になるのではないでしょうか。
重ねる事を考えますと、紙は厚手のモノよりは、半紙などの薄手の方が良いと存じますが、私はどうしたらこの様な枚数をきれいに重ねる事が出来るのか分かりません。
何度か試しているのですが、正直な処、上手く出来ません。
片山公壽氏の『御幣‐神と仏のすがた』(青山社・絶版)によりますと、両部神道系の御幣は、紙を四つ折りではなく、二つ折にしておりますので、重ねが多い御幣はこれに倣った方が良いと存じます。
どなたかご教示して頂けると幸いです。なお幣串の長さは三尺二寸です。
自坊には本尊の十一面と併せ、お不動さまと三面大黒を中心を祀っております。
特に坊内には天部が多く祀られているのですが、ダキニや聖天をも眷属とする三面大黒がよく障碍を押さえてくれています。
この三面大黒に応化するのがお不動さまです。
ですから、自坊では、天部を修法するために、日常的にお不動さまを強く拝する事が不可欠となっております。それだけこの御幣の存在も大きいものがあります。
『三宝荒神』幣
湯殿系の御幣の中では、この「三宝荒神」幣も個性の強いお姿をしています。
巨大な竈を思わせる御神体からお湯が流れ出る湯殿山の御神体から推察しても、竈の神とされる三宝荒神は特別の存在だったに違いありません。
この御幣に使う紙は三枚の色紙です。色は黒に紅白の三色となります。
紙の重ね方は口伝となっておりますが、写真をご覧になればその順番は一目瞭然の事と存じます。
知々理は中心側から7、5、3、7、5、3、7、5、3となります。
なお写真の御幣は、色紙が厚手のものしか入手できなかった事から、四つ折りではなく二枚折りにして作っております。
羽田守快先生曰く、古来より竈は家の中で一番強いエネルギーの発する場所であった事から、三宝荒神をエネルギーの神様と述べておられます。
私も仕事で遺跡の取材などに出掛けますと、かつてのエネルギー生産現場だった黒く煤けた竈の跡が掘り起こされているのをよく目にします。
「土」を盛り「火」を起こし、「水」を用い煮炊きしたであろう竈の神は、まさに人間にとって三宝「土」、「火」、「水」を守護してきたのでしょう。
勿論、三宝とは仏宝、法宝、僧宝を云い、この三宝を護持するのが三宝荒神です。
祈祷をよくする行者にとって、障碍払いの本尊として祀って頂いてもよいと存じます。
寶壽院流『鎮宅不動明王の御幣』
当家に伝わる御幣ではありませんが、前回の「五大尊祓い幣」に続いて本間龍演師が伝えた寶壽院流から、『鎮宅不動明王の御幣』を紹介します。
白紙3枚を重ね、金色の紙で作った金座をあて、竹に挟み仕上げます。
この御幣は家の悪難や凶相、凶意を封じ込めたり、またそれらの障碍を好転させたり、家内安全を祈念する為の護符となるものです。
通常の祈願は勿論、地鎮祭で開眼し屋根裏に上げるのも良し、家祓いで開眼してそのまま願主の家に祀ってもらってもいいでしょう。
注意して頂きたい事は、この御幣の切り線は全て曲線になるという事です。
また御幣の裏側に垂らす鎌状の部分の知々理は3つです。折る時は裏返しにして後ろに垂れた状態で知々理に折り目を入れて下さい。
コヨリで結ぶ竹の先端は丁度節目の所が掛かる様にすると結び目が解けません。
また垂れの上部も写真の様にコヨリか水引で結んで下さい。
写真の御幣は金座が11.5センチの正方形の金紙で、御幣本体は半紙で作っています。