第14講/甑岳観音寺文書『御幣切方大事』より(その4)

第14講/甑岳観音寺文書『御幣切方大事』より(その4)

『水天』

水天は十二天の一つとして西方を守護しています。

また縛?拏龍王とも云われ、一切の龍の総大将的な存在として、水に対して自由自在の威力を発揮します。

古来より雨乞いの祈祷である水天法の本尊としても勧請されます。

水天は十二天報恩経に「水天喜ぶ時は、二つの利益あり。一つは人身渇せず、二つは雨澤的に順ふ。此の天瞋る時は、二つの損あり、一つは人身乾渇し、二つは器界旱魃して萬物乾盡す」と説かれています。

水天の及ぼす水と人との深い関わりを知ることが出来ましょう。


『水天』幣

御幣は先を剣形にせず平らにし、知々理は中心から六、六と二本並び、続いて三、五、七と入ります。串は一尺八寸と決められています。

『釜神』

水天と対に祭られるのが『釜神』です。

釜は古来より家の中でエネルギーを司るとは三宝荒神の際にも申しましたが、火を守護する神として台所に祀られるのがこの御幣です。

御幣は知々理が中心から七、五、三、と入り、やや間を大きく空けて再度七、五、三と入ります。

『年徳神』

「年徳神」は暦と方位の神とされています。

関西では節分に、その一年の恵方の方角を向いて太巻きを食べる風習がある様ですが、こうした恵方を司どる神でもあるのです。

また当地では、大黒、恵比寿としても扱われています。

古老によると、かつては十二月二九日に「耳開け」という年越しの風習がありました。

御幣を祭り、一升升に炒り豆を入れた上に家族の人数分のお金を載せ「大黒様、恵比寿様、今年より来年は良い耳を聞かせて下さい」とお参りをするのです。

お金は一年間のお守りとして身に付けたと云う事です。

御幣は知々理が中心から、七、五、三と入ります。

文殊堂伝承『両部使い分け御幣』、『後払い幣』

山形市出塩にある真言宗醍醐派の良向寺出塩文殊堂は地元ではあじさい寺としても知られ、あじさいの季節になると参道はまるで宝石箱の様な美しさです。

修験の寺としての法流を守り、秘法伝授でも紹介した出羽の不動法は此処でのみ伝承されています。

出塩文殊堂が伝承している御幣は二種類のみです。

一つは不動幣と云えるでしょうが、出張祈祷の際などに用いるものです。

知々理は三つはいります。

折り曲げたままで、伸ばしたりしません。

先が剣形となっていますが、稲荷などの氏神の祭りに用いる際は先を平らにします。

両部使い分けの『御幣』という事です。

もう一つは前回に和光院伝承の御幣として紹介した『後払い幣』です。

前回と同じ帷子にします。

地方の祈祷寺院ではこの二種類の御幣さえあれば、通常の祈祷には充分だったのでしょう。

それぞれ型紙も掲載いたしますのでご参考にして下さい。

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