平成8年の事です。
山形市出塩にある真言宗醍醐派の良向寺出塩文殊堂におじゃました際、護摩に参列する機会を頂きました。
その作法は変わっていて、焼供などが一切なく、実に簡易なものでした。
第五十六世住職の大江勝道師にお聴きした処、神仏分離以前に出羽の修験宗で広く修法されていた作法であるとの事でした。
何度かお訪ねするうちに、次第書を頂く事が出来ました。
拝見した処、供養法の途中で護摩作法を行う普通の護摩と云うよりは、供養法を修しながら火を炊く作法であると気づきました。
その後、この作法を仔細に検討した結果、護摩というよりはむしろ特殊な不動法と呼ぶ方が適切であると確信しました。
大江住職の許諾も頂きましたので、この特殊な不動法を簡単に紹介させて頂きたいと存じます。
作法としては繁雑な所作はありません。緒尊通用行法次第を参考して頂き、要点だけを簡易に述べて行く事に致します。
先ずは前供養が終わり、献檀供までは常の如しです。
次は4本づつ9段に積み重ねた計36本の護摩木へ点火した後、檜扇を執り「おんぼくじんばらうん」と三反唱えながら扇ぎます。
火が上がったら、四智讃、本尊讃、普供養、三力、小祈願、禮佛と続けます。次に十四根本独鈷印(不動索印)を結び、以下を唱えますが、真言も宗派により読み方も違いますので、次第書のコピー原本をそのまま以下に示す事にします。
次に本尊加持と続きますが、正念誦に口伝との書き込みもありますので、以下に字輪観まで、同様にコピー原本を示します。
字輪観の後に二段目に入ります。
本尊加持の後は佛眼、散念誦と続きます。散念誦は以下を唱えます。
佛眼百反 大日百反 火界百反
慈救咒千反 一字咒百反
降三世八字咒百反
軍荼利小咒百反
大威徳心中咒百反
金剛夜叉小咒百反
大金剛輪百反 一字咒百反
散念誦に続いて、三段目に入り後供養へと続きます。
以下は通用行法次第と同様です。
供養法を修しながら檀木の火を絶やさずにしなければなりませんので、火の勢いを見ながら小木(乳木)を投じる必要があるでしょう。
この作法を護摩とは謂い難いと感じる方もいる筈です。
確かに護摩として見れば、観想的な不備な点は指摘せざるを得ません。
しかし不動法を補う形で、火を焚く作法と考えれば、かなり緊密度が高い特殊な不動法としての行法が見えてきます。
出羽の修験者達の工夫が活きた行法に、とかく師資相承ばかりを重んじ形骸化した、現代の行法を見直せと渇を入れられた思いがします。